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あなた以外は風景になる

その人以外見えなくなった時のことを書いておきたい

Laika came back『confirms』 サイン会

◼青春のかたち


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口にするにはまだ少し抵抗がある『私の青春』という言葉、もしかたちにするとしたら、それは間違いなく車谷浩司さんその人のかたちを描くだろう。

 

ずっと子供のときから20年以上好きで、憧れて、そして同じだけ嫌って、あきらめて、でもやっぱり愛している人。初めてCD買ったのも、初めてライブいったのもこの人。そんな人生をかけてお慕いしている方に謁見し、まさか目の前でサインをいただくことができる日が来るとは。

 

長生きはしてみるものだ。

 

※ライブじゃなくて、ライブのあとのサイン会の話です。

 

彼との思い出はそれこそ(一方的に)山のようにあって、それを書き出すと軽く二万字越えると思うのではしょるけれども。今のようにアイドルもバンドマンもそれこそ和田アキ子さんまでファンと触れ合う特典会なんてやってるけれど、そんな特典会などなかった頃に出逢ったのが、車谷浩司さんでした。

 

初めて好きになったときは彼は現役高校生青春バンドで。そのあとデュオを組んでおしゃれ~なサウンドを奏で、のぞんでいなくても『ポスト渋谷系』とか呼ばれて。それもあっさり解散してソロプロジェクト始めたと思ったら、オルタナティブロックだかパンクロックだかわからぬが激しくジャカジャカとキッズがダイブしまくるライブから、急に与党やNATOがどうだのと歌い始め、ライブの前に動物愛護団体の演説が来たりTシャツに『私たちは全てのテロや報復行為に反対する』と書かれたり急に『コモエスタ!』と挨拶しながらkjと組んだり……なにがなんだか読んでもわからないと思うが私もわからないので安心して読み飛ばして欲しい。

 

まあとにかく形態も音楽性もファッションもバンバンに変化をしながら突き進んで急にソロプロジェクトもシングル発表数日前に終わらせてという激動の人が車谷浩司だった。その人が、また新しいソロプロジェクトを立ち上げたのが数年前。それが今の活動名『Laika came back』。

最初のアルバムは買ったけれど、穏やかなフォークソングは彼の声にとてもあっていてよかった。しかしなかなかワンマンもなくてそのうちに足が遠退き、実に六年ぶりに足を運んだライブで、当日まさかの『サイン会あります』のお知らせに私は引っくり返ったのだった。

 

逢える?

 

今までサイン会とかなかった(多分)ので、地方ではやってると聞いたこともあったけどまさか東京であるとは思わなかったので心臓が口から出そうになった。

まさか、まさかだよ!!!!

とにかく事前物販でアルバムを買い込む。慌てて家を出る前にレターセットを掴んできた。

今までの経験上、サインや握手の短い時間できもちなんて伝えられない。そんなスキルが自分に備わってないのははなからわかっていた。だから手紙を書こうと思ったのだ。

向かう電車内でスマホに下書きを打ち込み、会場で開演までの間に必死に便箋を埋めた。

 

ライブのあとから物語は始まる。

(ライブも滝に打たれるほどに素晴らしかった。これはまた別に書きます)

 

螺旋気味の階段の上に、車谷さんの姿を見つけた時は心臓が跳ねた。いる!さっきまでステージにいた人がいる。一段一段階段を上る度に近づく距離。近づいていいのが信じられない。前に並んだ友人の番が来た。彼女は別の会場で既に接触を済ませているので、朗らかに会話をしている。あ、笑ってる。笑いあってる。それだけのことが気が遠くなるほど羨ましかった。私は、車谷さんと、笑いあえるのだろうか。

 

友人がテーブルから離れると共に私は歩み出す。こんばんはだかありがとうございますだかの挨拶を車谷さんの唇が形作る。唇が目の前で動いているのに耳が認識しない。私に届いているのに言葉に変換できない。

ぐっと握りしめたアルバムを差し出すと少し笑って『どこに書きましょうか?』と優しく訊ねてくださり、アホな私は…お任せします……と蚊のなくような声で言うのが精一杯だった。この会話のシミュレーションもしてたのに!『どこに書きましょうか?』ともし聞かれたら『一番好きな曲のところにお願いします』というつもりだったのに。サインは簡単にさらさらとペンは進んでいく。ありがとうございますと言っている自分すら最早何処にいるのか遠い。あっ!手紙!!

『あの、お手紙を書いてきたので読んでください』

サインの手を止めずにしかし目線はちらりと手紙に走らせて『勿論。読ませていただきます』と穏やかに少し語尾の上がるいつもの話し方で頷いてくれた。会話が止まる。またも何も出てこない。

 

今まで沢山お金を払ってアイドルと接触してきたスキルなんの役にも立たないのかよ!!!!バカ!!!!新規から出直せバカ!!!!

(あとで打ちのめされた事実ですが、当時はこんなことすら思い及ばずただあわあわしていた)

 

挙動不審者を前にサインを終えた車谷さんは穏やかに手を差し出してくださった。すらりと白く細い、でも私の手を包む大きな手。触れた。生きている!生きているんだ私たち…と思った。

体温は、熱は説得力だ。

私も車谷さんも生きている。同じ時代に生まれ、一方的な関係だけど出逢えた。お互い生き延びて出逢い続けていられた。その巡り合わせのなんと尊いことか。

 

『小学生の、頃から、ずっと、ファンです。これからも』

 

途切れ途切れにやっと言えた!!ずっと、ファンです。あなたのファンです。言葉にしたら三秒ですむことがずっと言えなかった。チャンスがなかった、作ろうともしなかった。でもずっと叫んでいた言葉。大事にしてきた言葉。積み重ねてきた時間。

 

やっと、私は初めて好きになったひとに、初めて視線を交わして、初めて触れて熱を交換しながら、一番伝えたかったことを直に言えたのだ。

 

穏やかに微笑んで、彼はまた『ありがとうございます』と口にした。それで終わりだった。恐らくお礼とまた会いにいきますということを口にすると(記憶が飛んでいる)彼は嬉しそうに頷き、私はそこを離れた。

 

車谷さんの手元に、私の手紙が残った。

私が確かに今日彼に逢った痕跡が。

 

終わってからは放心だった。普通、アイドルやバンドマンでも憧れの人と接触したらテンションがおかしくなってニヤニヤしたり体温が上がったりするのが常なのにこの日は違った。浅くなっていた呼吸が急に深くなったせいか、ちょっと眩暈がした。手のひらから車谷さんの熱が、車谷さんの感触が抜けていく。消えるというよりも抜けるという言葉が相応しかった。やっと埋めてくれた場所が急にまたさみしくなる。手を洗いたくない、痕跡を消したくないとこんなにこいねがったのは初めてだった。

 

儚い。これで終わり。

 

無理を言えばループも出来たのかもしれない。一番安いミュージックカードを掴んで彼の前へ積み上げれば、もっと長く話せたのかもしれない。それに近いことは別のところでいつもやっているのに、でもやろうとも思えなかった。いつもお金を払って正しいことだと思ってしていることが出来なかった。あの人が大切にしているものを、自分を刻んで世に出しているものを、彼が望まないかたちで乱暴に消費したくなかった。その事実が私を打ちのめした。

 

また逢いに行こう。

直ぐに、ではなく。無理もせず。

会いたくなったタイミングで、また。

その度にきっと私は何も伝えられないだろうけど、でも、また。

 

『あなたのファンです』

 

その言葉以上に私たちの間を正しく繋ぐ言葉を私は知らない。だからまた何度でも言おうと思う。伝えられる限り言おうと思う。何度言ってもけして消費されることのない、愛情をひたすらに注いでいこう。

 

生きてさえいれば、きっとまた逢える。

 


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