SR サイタマノラッパー~もうひとつのマイクの細道:元アイドルとアイドルおたくと
前クールテレビ東京の真夜中にやっていた「SRサイタマノラッパー~マイクの細道~」というドラマがあった。
これは2009年公開の入江悠監督「SRサイタマノラッパー」という三作にわたる映画シリーズの続編で、初作公開から実に8年もの時を経て、今回ドラマとして続きが描かれたのであった。
映画三部作をこよなく愛していた私にとって、この報せは生きる力になったといっても過言ではなかった。というのも、当時大好きなアイドルグループの推しが卒業してしまい、推しの卒業という初めての経験に私は心にぽっかりと穴が開いた気持ちで毎日を過ごしていた。
そのドラマの肝となるライブシーンの撮影を込めた特別ライブイベントが開催されると聞いて、わくわくしながらチケットを取った。
出演者は作品のオープニングを歌うライムスターを筆頭に全員ラップグループである。作品に縁のある出演者を中心に、私でも見たことがある人たちや名前を知っている人しかいなくて、撮影も勿論のことだがライブも心から楽しみにしていた。
ドラマの中に使われるライブ撮影も、その後のライブも本当に楽しかった。SHO-GUNG(作中のHIPHOPグループ)を初めて生で見て感激し泣いてしまった。いろんなスタイルのプロのステージは、ラップに詳しくない私も心から楽しめて、満足ではちきれそうになりながら、私と友人は帰る準備をして出口へ向かった。
その途中で、スタッフがひっそりと「このあと朝まで残れる方いたら、エキストラお願いしま~す」という募集をしていて、私は友人と顔を見合わせた。どうする?(友人もこの作品のファン)短い話し合いの結果、お互い暇だったので、揃ってエキストラ参加することにしたのだった。何よりまだ見ていたかった。この愛すべきドラマの世界を。
エキストラとして集められた私たち(私と同じように飛び入りの人と、前もって集められていたスタッフさんの知り合い?のような人たち)は、いくつかの撮影に駆り出された。エキストラには詳細な場面説明はほぼない(ある場合もあった)。 私はその日初めて会った女の子と、 真夜中のチッタ前を歩くように指示された。 カメラの焦点は私たちの遥か先にいる役者さんである。 映るか映らないかでいったら『映らない』だろうと踏んで、 私は安心してカメラの先を見ることに集中した。 そこには私の大好きな役者さんがいる。 役者さんなんていってるけど、心の中では『アユムが! アユムがいる!!』って大変だった。そりゃそうだ、 何度も見た作品の愛着のあるキャラクターを生で見られるのだ。表情も見えないし セリフも聞き取れない距離でも、 アユムとして動いているのを見るだけで嬉しかった。
『こっちに来た方が映りますよ』と声をかけられた。
それからもポツポツと彼女は気を使って話しかけてくれた。
『実は私、アイドルをしていたんです』
息が止まった。
少しだけの短い間でしたが…と続ける彼女に、 申し訳ないけれどグループ聞いてもいい?と訊ねると、
知ってる!ていうか見たことある! ていうか事務所大手じゃないすか!! 別グループだけど某とか某よく行ってました!!!!
ということを熱量を下げて答えると(熱くなっても申し訳ないため)、 もう事務所もやめてしまったのですがといいなから、 いろいろまた彼女はお話ししてくれた。○○というグループの○○ ちゃんは友達なんです~えー!知ってるー!とかまあそんな話。○○ ちゃんいい子なんで応援して欲しいです!なんて彼女は無邪気に話してくれた。
知ってる!ていうか見たことある!
ということを熱量を下げて答えると(熱くなっても申し訳ないため)、
そんな中で彼女はふと、
うむ。そうじゃな…
『私もね、
泣いてしまうかと思った。
こんなことが、こんなことがあるんだ。
おたくとしてやりたくてやっていたことが、
涙を堪えながら『だといいんですけどね~』
この子のおたくたちにこの話を伝えたい。
いい子を好きになりましたね。羨ましいです。一生自慢の推しじゃないですか。
「SRサイタマノラッパー」このドラマは『夢を叶えるために進んでいく』という話ではなかった。むしろ夢を諦めるために、夢の期限を自分でつけるために、最初で最後のステージに立つストーリーだった。自分に才能は多分ないと思いながら、でもこれしか好きなことがないという気持ちでステージを目指す主人公たちの話。
そんな中で、きっと私が思う以上に紆余曲折ありながらも夢に向かっていく女の子とひとときながら出会えたこと。このドラマと彼女を重ねるのは失礼とは思うが、なんだか不思議な縁を感じずにはいられなかった。
そのシーンの撮影が終わり、彼女は知り合いの輪に戻る。そしてエキストラ終わりに「今日はありがとう。これからも頑張ってね」と短く伝えるとにこっと笑って返してくれた。
今日のことは多分一生忘れない。ドラマ以上にドラマティックなことが現実にはあるのだと噛み締めながら夢の続きのような始発電車に乗り込んだのだった。