あなた以外は風景になる

その人以外見えなくなった時のことを書き留めたい

2017/9/4 GOMESS FREESTYLE LIVE「ゴメスの誕生日」at,下北沢THREE

 
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■「俺はラッパーになる、なった」GOMESS23歳の正にその一歩目を目撃した

 

GOMESSの誕生日イベントに行き始めて今年で三回目になる。

前回まではトークイベント(とはいえ、様々なジャンルからのゲストによるセッション有)だったが、今年は90分フリースタイルライブをやるという。

春のワンマンライブの感動もまだ焼き付いているので、期待を胸に会場へ向かう。

 

時間前に到着すると、すでに熱心なファンの人たちが並んでいた。しばし待って入場開始。入場時に謎のカセットテープが渡される。先着何名かで限定配布とのこと。

中身が気になるが古いラジカセは処分してしまったんだよなあ…と思いながら場内へ。

 

程よい人入りになってきた頃合いでイベントスタート。ステージの設えはシンプルだ。DJブースにDJ矢車が立ち、GOMESSの背中を見つめている。それだけ。

 

完全フリースタイルライブと銘打たれているとおり、マイクを握りしめたGOMESSは淀みなく言葉を生み出していく。吐き出していく。つないでいく。数曲していつの間にかトラックが止まっていることに気づく。表情が柔らかくなる。しかし言葉は止まらない。そうかここはMC部分なんだなと気づく。ビートに乗って繋がっていく言葉が気持ち良すぎて、言葉を追っているのに見失うことがしばしばあった。申し訳ないと内心恥ずかしく思っていたのだが、彼自身が「ディズニーは音楽が良すぎて、聞いているとただいい音楽だと思って涙が出ることがある」という話をしていて、ああこれでいいんだな思う。彼が吐き出し繋ぐ言葉は、大きなうねりとなって音に乗り、それこそが音楽なんだ。彼の世界に触れようと、必死に言葉の意味を追うのもいいだろう。でも、言葉をRAPを声を一つの【楽器】としてそれを楽しむのもまた正解なのだ。

 

序盤早々でテンションが上がったのか「今日は90分の予定だったけど楽しいから120分やる!」と宣言したとおり、全部で120分の長丁場だった。最後ステージを降りて客の中でマイクを握るGOMESSは叫び続けた「今は死にたいとか苦しいとか暗い歌ばかり歌っているけれど、いつか俺はお前の為に、お前たちの為に俺はRAPをする。お前は、お前が、変えるためのお前だ。お前はお前のためのお前だ。お前が見ている俺はお前の為に生かせ」確かに文字に起こしたら意味が伝わらないが、あの日あの会場にいた全員が、正しく彼の意図を汲めたのではないかと思う。大きな声ではっきりと、畳みかけるように何度も叩きつけられた「お前は」という言葉、吐き出されるたびに不思議と自分が肯定されていくきもちがした。

そんな風にGOMESSに集中していたら、言葉の終わりと同時にステージからドラムの音が叩きつけられたので死ぬほど驚いた。いつの間にか、ステージにはさっきまでなかったキーボードとドラムセットが運び込まれ、シケイダの二人が座っていた。まんまと思う壺にはまった…が、そのあと楽器をバックに嬉しそうにRAPするGOMESSを囲んで、終演を迎えたのだった。

 

フリースタイルだとどんなところがよかったかな説明するのが難しいけれど、GOMESSの神髄はその類稀な言葉のセンスとRAPスキルだと思っていたけれど、もしかしたら何よりも自己演出の才能のがあるのではと思わせるライブだった。思い返せば、春に二年ぶりに行われたワンマンライブでは、普段とは全く違う「自分は動かず、手にした本を朗読する態でライブをしていく」という演出でもその才能に驚いたのだった。

とにかく「情景」に関わった様々な演者がかわるがわるステージに出てくる中、静謐なシーンでもバタバタと場を踏み抜いていくのが中尾有伽だった。私は彼女のことが嫌いではないのに、この日は彼女の挙動にひどくイライラさせられた。たくさんのゲストの中で、彼女だけが不協和音、バグに感じて仕方なかった。ゲストは出ては引っ込んでいくのに、中尾だけは繰り返し出てきては場を踏み抜いていく。動かないGOMESSと対照的な動きを見せる。しかしライブの終盤で不意に腑に落ちた。今日の中尾は【GOMESS】なのだと。敢えて動きを封じたGOMESSの依り代としての中尾なのだと。これが演出意図のうえなのかどうかはわからないが、自然とそう思えた。必要だから自分の動きを制御し、その代わりのものを配置する。ライブを通じて芝居のようなまとまりを見せたこれが全て計算なのだとしたら、自分が意図した見せたい世界を客へ正しく届ける力、これこそが才能だと思ったのだった。

 

話が横道にそれたけれど、また新しい可能性を引き出している、23歳の門出に相応しいライブだった。

新しいアルバムの制作に着手するという計画も話に上がり、ますます楽しみだという気持ちでいっぱいになった帰り道だった。

 

最後に私がこの日持ち帰った言葉たちの中で、一番印象に残ったものを記しておく。

「たのしいことにつまんねえことを持ち込むな」