田上良地ラストステージ ザ・スロットル 5/31ロッカールーム
これを書くことで親しい誰かが傷ついたりするんじゃないかと思っていたが、記憶はどんどん消えてしまう。消えてしまうのが哀しいので率直に書いておく。わかりやすくはない。自分用のメモである。
ザ・スロットルのベースを務めていた田上良地が、5/31を持ってバンドを脱退した。
えらく直前のお知らせで動揺した。
予兆が無かった、といえば正直嘘になる。
ここには書かないけれど、足繁く通っていた私の周囲ではほんのりとそんな気配を感じていた。
不安を口にしたことも、ある。
それでも杞憂だと信じていたかった。
そしていつだって【その日】は突然やってくるのだ。
最後のステージは自主企画ではあったけれど、3マンだから持ち時間はそんなにないのは明白だった。
気持ちをどう持っていけばいいのか迷っているうちに、スロットルのステージが始まってしまった。
そこからはあまり記憶が無い。いつも通りに夢中になる、いつも通りのスロットルだった。
ただひとつ、良地くんのラストステージということを除いては。
どうしても常にその気持ちはつきまとう。意識してしまう自分がいるのが嫌だった。
最後くらいはワンマンで、いつかの下北沢ガレージみたいにスロットルを求めるお客さんでひしめきあいたかった。熱を届けたかった。
拍子抜けするほどあっさり、本編は終了。
アンコールの前にキーボードが用意され、期待を込めて待つ。
すっとステージにひとり進み出たのは良地くんだった。
真剣な空気が会場を支配する。
良地くんは神妙な客席を隅々まで柔らかい視線を投げた後、ゆっくりと口を開いた。
今回このようなことになった経緯、というほどでもない簡単な状況説明。でもそれは簡素だけれどどこまでも良地くんだった。自分の言葉で、ありのままを、飾ることなく恐れることなく語ってくれた。短いその時間の中で一番印象に残っているのは「俺が辞めたからって明日からスロットルが急に売れることも無いし自分の人生が急に成功するわけでもないんだ。だから明日からも地道に真面目に生きていく」という言葉だ。それは真実そうであるし、彼の嘘偽り無い正直な気持ちなのだろう。だから物凄く刺さった。こんなに真面目に地に足をつけているのに、ステージではロックを鳴らしているそのアンバランスさ、それが彼の魅力だと強く思った。
話を続けながらキーボードの前に座ったのは、遼くんではなくて良地くんだった。それは少なくとも私ははじめて見る光景。
そして良地くんが、スロットルのこれからの成功には俺の名前はいらないんだ。だから…といいながら柔らかくキーボードを鳴らした。
『だからさ、俺の噂はするなよ』
そう言って唄い始めたのは『噂はするなよ』だった。
私の肩の辺りから、友達の嗚咽が聴こえた。
私は泣かなかった。ただひたすら、良地くんが唄う姿を見ていた。最後にベースではなく、キーボードを、いつものようにまっすぐに伸ばした背筋のままで弾くのを、朗々とよく響く声で歌う姿を焼き付けたいと思った。
そして、この曲が終わらなければいいなと。
そのあとも良地くんがボーカルをとる曲を披露し、賑やかに彼はステージを去った。
いつもどおり歓声に応えてまっすぐに上げた手で、チャーミングに柔らかくみんなの涙を拭って。
この一年で一番ライブを見たバンドだから、正直さみしい。ただたださみしい。
もうあの自分で生み出したリズムに上品にノる姿が見られないことがさみしい。
新体制のバンドへの期待はしっかりあるのだけれど、それとはまた違うベクトルで存在している。
良地くんのいないステージ、どんななんだろうな。
最後にお別れの言葉を直接言えなくて哀しかったけど、顔を合わせたら泣き言を言ってしまったかもしれないからよしとしよう。
お手紙を書いたから読んでもらえていたらいいな。そして、いつも幸せとあなたが愛した音楽が傍にいますように。
"噂はするなよ
俺去りしあと
ヘイハニー
人の気持ちは
人の生きる道は変わる
そうだね?
忠告さ
噂はするなよ
俺去りしあと
ヘイフレンズ
思い出すのも辛く悲しいぜ
何故なら俺はいい男
これ投げキッスこれが最後のキス
幸せになれよ"
噂のひとつくらい多目に見てくれるよね?
ありがとう。
君と出会ってからずーっと幸せだったよ。
君こそ幸せになってくれよな。