福島県立いわき総合高校『知らない体温』に触れて
いわきの高校生が浜辺で踊るのを見るために、あなたの5分をください。
いわき総合高校の芸術·表現系列(演劇)では、毎年3年生が卒業作品として演劇公演の発表を行なっている。それらを経て、それら全てを含め、今だけの映像を撮り続けた17期生による新たな作品。原作・出演
とはいえ、これが本編ではない。これは作品のあくまで一部。もしMVを見て少し興味がわいたなら、本編も観てほしい…と普通ならお勧めするが、今回はちょっとそれも難しい。というのも、このMVからは想像できない作品だからだ。
この作品のことを知ったのは、 劇団ゆうめいの演出・池田亮さんのツイートだ。 現時点で私は劇団ゆうめいの公演を見たことは無いが、 とあるインタビューきっかけで劇団ゆうめいと池田亮さんの存在を 知った。そして絶対に1度見てみたいなと思った。 合う合わないが絶対にあり、 そして見てみないとわからないのが舞台だと思う。 合うかどうかはわからないけど、 絶対に1度は触れたいと思うインタビューだった。 コロナ禍が落ち着いたら、是非足を運びたいと思いながら、その存在を忘れないためにTwitterをフォローしていた。
その池田さんがいわきの高校生の卒業公演に関わるとツイートで見かけたが、その後コロナ禍の影響で上演ができなくなり、代わりに創られた作品が一般公開をすると知った。
とはいえ、 その作品がどんなものなのかは全然知ろうともしないままMVも見ないまま。「公開された」というツイートを見てまず再生手続きをすませ、スマホを風呂場へ持ち込んだ。「 手続き」と書いたのは、 これは無料で誰でも見られる作品だがパスワードを取るために個人情報を送らないといけないからだ。丁度 仕事が地獄の繁忙期を迎えており、 腰が砕けそうなのを少しでも回復するべく毎日しっかり湯につかりたかったので、その時間のお供にこの得体の知れない作品でもいっちょ見てみるかなと 考えた。
演劇が始まりそうな導入部から一転、何の説明もないまま不思議な映像が展開していく。再生し暫くはぼんやりと画面を見やっていたが、 不意にあることに気づく。私、 この子達のことを何だか好きになってるぞ。 全然知らない子達なのに。 そして一通り見終えて風呂から上がる頃には疲弊した体に不思議な元気が宿り晴れ晴れとし、これを作ったいわきの知らない高校生達の幸せを祈っていた。
「知らない体温」の感想を話したい!でもこれ、 誰に勧めたらいいの?演劇でも映画でもない、 不思議な感触の映像作品。ダメもとで友人にLINEを送る。 まあちょっと時間があれば見てみてよ。んじゃ飯食いながら見てみるわ。 芝居でも映画でもないという私の拙い説明に友人もあまり反応はよ くなかった。が、小一時間ほど経った頃、スマホが着信を告げた。開口一番 「おもしろかったよ」と明るい声がした。
この作品の性質上、 余り仔細に内容を触れない方が良いのだろう。すごく不思議なのが、映画でもなく、ましてや舞台の映像化でもないのにこの作品には不思議と演劇っぽさが色濃く残っている。妙な肉体性がある。友人は「本来なら見えてはいけない人(カメラ)が見えているけど、見えていないことにする気持ちが演劇っぽい」といっていた。なるほど確かに。この作品ではカメラが黒子のように「見えているけど見えていない」ことになったり、顔のないモブとして影響を与え合ったりしている。それが映像作品なのに映画ではない、不思議な共犯関係を生んでいるのかもしれない。
3月の終わり、彼らの卒業とともにこの作品は公開を終える。皮肉にも コロナが無ければ生まれなかった作品。 コロナはこの子達から沢山のものを奪った。高校生でこういう学科のある高校を選んだ子たちだから、 卒業発表の舞台のためにきっと3年間(もしかしたら入学前から)努力し続けてきたのではない かと思う。 高校生活の総仕上げとなる餞の舞台を奪われたことで生まれた不思 議な作品を、いわきから遠く離れたなんのゆかりも無い私が味わわせてもらった。卒業後の進路は様々なようだが「表現したい」というその気持ちはすごく幸せな力であり、うまく伝播すれば全くの他人の心を震わせ元気を渡すことが出来るものだ。それはこの作品を見た私が証拠です。どんな形であれいくつになっても持っていていい気持ちのひとつだと思います。不思議な元気をどうもありがとう。どうか、これからあなたたちが進む道が幸せでありますように。1秒前まで知らなかった人の表現に触れて、その人が「知らない体温」の持ち主ではなくなっていること。こんな気持ちを届けてくれてありがとうという感謝と幸せを願う気持ち。表現する人に対する第一の敬意やこちらから返せるものってこういうことなのかも知れないなと強く思った体験だった。
『知らない体温』 歌:福島県立いわき総合高校 芸術·表現系列(演劇)第17期生
作詞:edda、池田 亮
作曲:edda
積み上げていた 配色は
光とまじわることもなく
話せば⻑くなるよって不貞た
今日との小さな秘密
好きな嘘で嫌いな弱さを歪ませて
合う?合わないや、の世界線
ここからそれらを連れて 一緒に
物語の結末が 僕らを拒んでも
不細工なままの足跡も歌になる
だから届け、届け!知らない体温まで
やっと歩き出せたなら優しい 答えをくれよ
ここからそれらを連れて 一緒に
空回りの足取りも不確かに踊り出す
見失うなんて嫌だ
間違って笑おうぜ
だから届け、届け!知らない体温まで
ありがとう、無事に届きました。知らない体温まで。