あなた以外は風景になる

その人以外見えなくなった時のことを書き留めたい

涙が吹き出る音を聞いた 2015/5/3 銀杏BOYZ at.ビバラロック

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涙が吹き出る音を聞いた。

峯田君の声を聴くのは何年ぶりだろう。
ゴイステは音源のみの在宅だったけれど、銀杏は機を見つけてはライブに行っていた。
一緒に行くという友人もいなかったので、ひとりで気楽に。背が低いのでみえねーよーとか思いながら。
銀杏のライブはいつもものすごいパワーが、ステージだけでなく会場全体を根こそぎ包むような感じで、その中心にいたのが峯田君だった。
そんなステージが、まさか無料で見れるなんて。
またこの日もひとりで電車に揺られてさいたま新都心へむかった。変わんないもんだな、そういうのって。

銀杏BOYZの前のGAKU.MCが終わった時点で、周りが急に圧縮ムードになった。
文字通り人が、ステージに押し寄せて来て、私は最前センターで背中を押されるかたちになった。
さっきまでいなかった屈強なセキュリティが、びっしりステージを取り巻く。
遠くでスタッフがもっとつめてというようなことを言っているが、どこにいる人につめろといってるのか全く分からない。
ステージは屋外なので、明るくて風が通って、人の声や騒音も運ばれてくる。
隣にはロキノン好きな若い女の子数名、反対側には同じく若い女子ひとり。少しロリータっぽい格好のその子と目が合った。どきどきしますね、そんな短い会話を交わす。

17時10分、ステージサイドが覗ける位置にいた観客が歓声を上げる。
私の位置からは見えない。けれど、峯田君が来たのだろう。
アゴギと共にステージに彼が姿を見せると、ひときわ歓声が大きく酷くなった。

峯田ー!峯田ー!!
シネー!!

相変わらずの野次が、全身で峯田を求める声が飛ぶ。
変わってないなって、懐かしくてなんだか力が出てきた。

歓声と怒声が入り交じる。スタッフがどんどんぴりぴりしている。
その空気をゆっくりと割くように峯田君が口を開いた。

「シネー!ってよく言われるけれど、それが今は祈りにすら聞こえる」
「テレビでやってるチャラチャラしたんじゃない音楽を聴きたくて来たんだろ?」

「なんで俺の聴きたい音楽は流れないって思って、聴きたくてここに来たんだろ?」
「やるから。(あなたがたが)聴きたい音楽をやるから」

うろ覚えだけど、これで会場の空気がガラッと塗り変わった。吹いている風すらも変わったような。さっきまでの熱狂が嘘のよう。みんなが峯田を見ている。
椅子に座って、アコギを抱えてじゃらっと奏でた。
さっきまでのうなるような怒声や歓声はどこへいったのだろう。
痛いような静寂の中、峯田がマイクに口をつける迄の時間が、気が遠くなるほどに長く感じた。

一曲目は「東京」だった。

今日は銀杏BOYZを見に来たし、だからこそ何時間も前から気合い入れて最前で待ってたし、ひとりになった峯田が何を歌うのか全身全霊でまっていたはずなのに。
ギターを奏でただけであっさりと気持ちを持っていかれてしまっていた。
隣の人の嗚咽ではっと我に返って、というか両隣後ろ全ての人が泣いていて、自分だって涙が顎まで到達してた。
伴奏するように口ずさむ歌声が、だんだん小さくなっていく。
アコギで歌うから、もう全てのリズムは峯田のもので、一緒に歌いたくてもリズムも呼吸も合わない。
でも私はもう一緒に口ずさみたいとか全く思わなくて、多分みんなそうで、ただ静かに誰もが黙って峯田の歌を聞いていた。
あんなに人がいるのに、誰もが峯田を静かに食い入るように見ていた。

ぴりぴりしていた大勢のセキュリティが、拍子抜けのような、不思議な表情を浮かべて観客を見ている。
それくらいあの時の会場の空気は異様だった。永遠に味わいたかった。


今日のために歌を作った。一年半かかった。生きる喜びとかじゃない生きていると抱える罪の歌だ。
2015年の今、俺が歌えるのは愛やぬくもりじゃなくて、罪や嫉妬で。
そういう歌をこれから歌いたいと思います。

そう、峯田は新曲を歌った。
タイトルは「生きたい」

長い長い、長い歌だった。

あの場所を峯田は歌とギターで全てコントロールしてて、意図してかしてないのかわかんないけど、でも観客も静かなのに全身でライブに参加してて、窮屈なのに精神が解放されているような不思議な時間だった。
なんだったんだろう。
観客も、天気も、風も、全てが完璧だった。
煩い横槍が皆無だった。

続く「BABY BABY」の「夢のなかで僕ら手を繋いで飛んでた目が覚めて僕は泣いた」のところ、ここがフェスやってる駅前ってのが全く嘘みたいに、さっきさまでのアナウンスや救急車やその他の街の騒音が全て消えて、大袈裟だけど世の中に峯田しか声を持ってないんじゃないかってくらいクリアに聞こえた。

不意に隣のロキノン女子が、痙攣を起こしたように全身を震わした。
泣いているのだ。体の中から泣いているのだ。
気持ちを全部ステージに、峯田にぶつけて泣いている。

結局アンコールまで含めて七曲やったんだけど、MCまで含めてひとかたまりだったんじゃないかというくらい全てが完璧だった。
なにもかもがステージの味方してた。
最後にはダイブしたひとがひとが頭上からばんばか降ってきたし、モッシュされてぎゅうぎゅうになった。
懐かしい光景がそこにあった。むしろ安心した。最高だ。行ってよかった。

終わってからも、もう全てを投げ出してしまって放心状態で。暫くその場を動けなかった。
ようやく歩き出したら知人と遭遇した。仕事の休憩時間に必死に抜け出して来たと言う。
二人とも会話したいのに、今見たものを会話で確認したいのに、言葉が出てこない。
混乱していて言葉が上手く出てこない。もどかしい。そんな感覚も久し振りだった。

あの光景を共有できた人と肩を並べて少し歩いただけでもう充分だった。

ひと月もたつけれど、まだあのステージを思い出すと泣ける。
もうあの距離で峯田の歌声を聴く事はないと思うけど、でもまた、絶対に逢いに行くから。

 

1. 東京
2. 生きたい
3. 新訳 銀河鉄道の夜
4. BABY BABY
5. ぽあだむ

en1. 愛してるってゆってよね
en2. I DON’T WANNA DIE FOREVER