あなた以外は風景になる

その人以外見えなくなった時のことを書き留めたい

パノラマパナマタウン『PPT Online Live「On the Road」』2020/08/16at.新宿ロフト(Streaming+)


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バンドにとっての「試練」というものがあるならば、それはそのままイコールでファンにとっても試練なのだと思う。身に降りかかる全ての事を見せてくれているとはこちらも思っていないが、不思議なことに、丁寧に隠したつもりの不安でも何となくかぎ取れてしまうことだってある。

 

2020年はきっとほぼ全てのバンドマンたちにとって「試練の年」だと思う。リリースベースで活動している人たちですら、全く影響がないとは言えないだろう。ましてや、ライブ活動に大きな比重を置いて活動していたら大打撃といっても過言ではない。そしてその状況は残念ながら現在も大きく好転はしていないのが正直なところだ。

 

それに加えてというか、実際に順序は逆になるが、パノラマパナマタウンには年明けの1月半ばに行った恵比寿リキッドルームでのワンマン公演を境に大きな出来事が二つもあった。ボーカル岩渕の喉の手術と、メンバーの脱退。

どっちか一つだってかなりの深刻な出来事なのに、続けて二つも報告されたこちらとしては重くて大きい事実にあらあらというしかなかった。最初から自分に出来ることなんて何もないのだけれど、ただまたバンドとしてステージに立つその日を静かに待つしかなかった。

 

再出発のステージは4月の日比谷野音になるはずだった。失礼を承知で言えば、ちょっと大きすぎるのでは…とも思った大きなステージ。でもそれは、彼らを支える人たちが彼らに託す願いの大きさだったのだと思う。再起のステージに花を添えるべく集まってくれたゲストのバンドたちもきっと同じで。そんな新しい旅へ出る餞のステージでもあったライブも残念がららコロナ禍で中止になってしまった。

 

大層落胆したのかと思いきや(したとは思うけど)、そこからメンバーたちが始めたのは配信だった。記憶が曖昧だが、最初は雑談のインスタライブ的なものだったと思う。誰もがしているそこからいつしか、配信は曲を作る過程を見せていくという確固とした目的があるものへシフトした。デモの状態の曲を観客に聞かせ、どれが良かったか聞き、次回はまた少しアレンジを加えたものを聴かせる。それを繰り返して曲が磨かれ仕上げていく様を見られるのは新鮮で貴重な時間だった。本人たちはもしかしたら「どうせなら毎週やっている成果を見せられれば」くらいのきっかけだったのかもしれないけれど、見ているこちらとしては自然と曲へ愛着が湧いていく時間だった。普通なら「新曲です!」と完成した曲がライブで差し出され、何度も披露されている内にこちらにも情がわき、本人たちもアレンジを加えたり演奏に慣れたりして曲がこなれていく。その育っていく過程が配信で味わえたのは面白かった。この日の配信ライブで初めて披露されたいくつかの新曲たちが、耳馴染みがあり愛着がある形で出てくるのは不思議な体験だった。

 

前置きが長くなってしまったけれど、そんな変化と試行錯誤を越えて、越えてないな。抱えて挑んだ配信ライブがパノラマパナマタウン『PPT Online Live「On the Road」』だったと思う。

 

新宿ロフトのステージではなくフロアに向き合うように並べられたバンドセットが映し出され「SHINKAICHI」からスタートした。この日のために用意されたかのような曲だと思った。新しい場所へ踏み出す曲。この曲から始まる印象的なライブが前にもあったような気がする。その時も「今日にふさわしい曲だな」と思ったけれど、この日もまた、この曲以外にないなという気持ちでいっぱいになった。節目をいくつ迎えても、聞くたびに背筋が伸びるような曲があるのは強いなと思う。いつものことだけど、ドラムへ向けて三人が集まって弾いているところを見て胸が跳ねた。これがすごく好きだ。客席からは窺い知ることができない、ドラムだけが見られる顔。

1曲目からフレームアウトするほどの勢いはそのまま曲を繋げていく。「Top of the Head」の”思いもよらぬほど素晴らしい明日が俺らには待っているはずだろう”という歌詞が深く説得力を持って刺さる。その後の「フカンショウ」も凄味すら感じるほどだった。激しいのに安定感がすごい、全体の重心が低く感じる。一音一音が踏みしめられているかの如くしっかりとした重さを持って画面の外へ届いてくる。新曲と既存曲を挟んでも勢いが落ちない。不安がない。ここには今、本気の人しかいないのだ。照明も音響もカメラも全て味方にしているのを見て、部屋に一人なのに自然と言葉が漏れていく。

 

この日一番私が聞きたかったのは「ラプチャー」だった。事前のリクエスト企画でもこれを出した。はじめてのアニメ主題歌だったり思い出もあるし、歌詞も曲も凄くいいのに、ちょっと雰囲気がありすぎてセットリストのどこへ入れるか座りの難しい曲だなあという感じがして、最近あまりお目にかかれていない気がしたからだ。なのでイントロが流れてきたときはめちゃくちゃ興奮したが、それをごりっと抑えて集中して見入った。紅い照明に均等に照らされた四人を息をつめて見た。この曲が聞きたかった。激しさと強弱、サビ前の印象的なベースのフレーズ。2番に行く前のギターもすごくかっこよかった。

今まで見た中で一番のラプチャーが更新され、というかもっと評価されていい曲では…こんなエンジンを積んだ曲なのかと改めて感じた。凄い。曲が進化しているというか、深度を増している様に思った。

 

聴きたいと熱望した曲が聞けたので脱力しそうになりつつ、間髪入れずに「Rodeo」が始まる。楽しそう!ハイカロリーな曲だけど、自由に好きな感じで楽しんでいるのが伝わる。と思ったら「テーマ」で急に手綱を緩めたり。緩急がすごい。あちらからはこっちは見えていないはずなのに、反応がわかっているかのようだ。

 

ライブを見終えて一番に思ったのは「こんなセトリでいいの?」だった。新旧織り交ぜて自由に、本当に直前までの自分たちをありのまま投影している。このライブはまるでドキュメンタリー映画のような感覚だった。カメラが映し出しているのは新宿ロフトだけど、これまで立ってきたステージ流れていった風景までも織り込んだ手触りのあるステージだった。どこを切り取っても画に力がある。フロントマンの岩渕くんだけでなく、いやむしろいつもその両隣にいる浪越くんとタノくんの方が滾っているような気さえした。ライブをしたいという本気が満ちていて、「ライブがあってよかった」と一気に吐き出した岩渕くんの言葉に凝縮されていたように、3人はステージを求めていた。ライブという日常を奪われて、枯渇して求め続けることはこんなにもステージへ向かうパワーになるのか。ここに観客がいるいないはなんの作用も及ぼさないと感じた。逆に観客がいないことが却って変にエモーショナルに流されることもなく、3人のただライブが楽しい!というプリミティブな喜びがこちらにダイレクトに伝わってきたのかもしれない。喜びとともに、しっかりと地に足をつけてリスタートを切れたのが、新章へ踏み出せたのが見てとれた。フロアライブで向き合いお互いの顔だけを見、お互いの反応だけを信じて進めていくライブは、迷いがなかった。正にこのライブ中に新しい所へ踏み出したという気がした。

 

コロナ禍でメンバー同士も顔を合わせることができないまま、生み出された楽曲たちも織り込まれたセットリストだったけれどとても自然だった。むしろ育っている気すらした。生まれるところから見せてくれたから、こちらも親愛の気持ちで迎えることができたのだと思う。コロナ禍がなかったら生まれなかったかもしれない曲たちを愛し育てている気持ちが伝わってきた。

 

ライブをめぐる環境は正直2月からたいして変わっていないように思うけれど、それでもひとつずつ気持ちや環境を立て直しながら進もうとしている姿を見られたのも嬉しい。こんなに心躍る配信ライブはなかった。そこに私が見たい3人の姿があったからに思う。サポートドラムの大見くんは旧知の仲ということもあり息もばっちり合って自然だった。岩渕くんの喉に関しては本当に忘れるほど何も不安がなかった。余計な迷いがない頼もしさに溢れていたステージを目撃出来て、この夜は深く眠ることが出来た。生の感動へ及ばないのはわかっているが、それでもしみじみと余韻の残るいいライブを目撃出来たという幸福感に全身を満たされて。

 

【セットリスト】

1.SHINKAICHI

2.Top of the Head

3.フカンショウ

4.C’mon Future

5.いい趣味してるね

6.Dogs

7.ラプチャー

8.Rodeo

9.パノラマパナマタウンのテーマ

10.ロールプレイング

11.SO YOUNG

12.エイリアン

13.俺ism

14.MOMO