あなた以外は風景になる

その人以外見えなくなった時のことを書いておきたい

「みんな、音楽は好き?」

「音楽は好きですか?」
知らない人に突然こう尋ねられたら、あなたはどう返しますか?

 

2017年5月2日、連休前日の夜。最早連休の入り口といっても差支えが無い時間。私は仕事上がりで渋谷のライブハウスにひとりいた。
完全圧巻の趣味の時間を満喫するためである。
その日は3組のバンドと弾き語りが別ステージで交互に行われるという趣向で、私はその中の一組を目当てに足を運んでいた。
仕事が忙しい時期で目当て以外のバンドをチェックする暇も無いまま、とはいえ私はわりといつもそうで、前知識無しでアイドルやバンドを見るのが結構好きなところもあり、期待しながら向かった。
ライブハウスに入るともう一組目が始まっていた。はっきりとした段差が特徴のハコなので、最下段のフロアには下りずに二段目の段上の隙間からステージを眺める。正直そこそこ空いていたので、見るほうとしては楽な気持ちで楽しめた。初見だけれど楽しく体が揺れるようなバンドだった。
程なくして一組目が終わると、客の入れ代わりが生じる。場内にやや人も増えてきた。このライブハウスなら断然二段目で見るのが好きなので(ステージの高さと同じところで見ることが出来るから)待っていると、運よく場所が空いたので手すりを取る。あ~やっぱりこの場所で見るのが好きなんだよな~~!!
ステージ上では次のバンドがセッティングを進めている。次も初見のバンドだ。静かに眺めていると、どうやら私の隣の大学生くらいの若いカップルはそのバンドのファンらしい。あまり普段はしないけど連休前で浮かれていた私は、つい彼らに声をかけてしまった。「このバンドはどんな感じなのですか?」と。
彼らは突然話しかけられても気さくな笑顔で「どのバンドを見に来たんですか?」などと応じてくれた。私は最後の出番のバンドを見に来たことを告げ、で、このバンドはどんな感じなのですかと尋ねると、突然男子がこう言ったのだ。

 

「音楽は好きですか?」

 

えっ。

 

この時の正直な感想を正直に述べるとこの一言に集約される。
聞き間違いかな?と正直思った。ので、私は申し訳ないけれどもう一度質問を繰り返した「どんなバンドなのですか?」と。
想定される答えはいくつかあるでしょう。何人組の…という編成かもしれないし、音楽性かもしれないし、何年くらい活動しててとかいう活動歴や最近はどこでライブをしたとか今後はどこでするとかさあなんかそういうの思い浮かべるじゃんすか。じゃんすかってなんだ。でもじゃんすか!
でも彼はもう一度笑顔で繰り返してきた。デジャヴュかと思った。「音楽は好きですか?」そう聞いてくるのだ。質問に質問で答えてくるのだ。スラムダンク桜木花道に「バスケは好きですか?」って聞いてくる赤木晴子さんより唐突だ。例え古いですか。じゃああれだ、Suchmosのヨンス。ヨンスはライブ中に急に「みんな、音楽は好き?」って問いかけてきた。あの時も急すぎてみんな戸惑ってた。えええ想定外。えええ困る。


真面目に考えてみる。「音楽は好き?」と問われて自分はどうなのかと。
ん~まず「嫌い」ではない。興味関心はある方だと思う。
まずあれですよね、こんな連休前夜にひとりでこんなとこ来てる時点で、普通「音楽なんて嫌い」はありえないです。

じゃあ「好き」なのか?

これは困る。正直、のべつ幕無しに音に囲まれていたいとは思わないたちだ。
囲まれていても苦にはならないが、無くてもいいという感じ。電車とかでイヤホン無くても基本は困らない。街中で音楽を聞きながら歩くことはあまりしないし、部屋でひとりでも常に流れているわけではない。
聞くジャンルにこだわりもあまりない代わりに、広く興味があるわけでもない。楽器や音楽の知識など皆無に等しい。音楽雑誌なんかもほぼ読まないし、フェスは基本行かないし、そこまで音源も購入しているわけでないし、おんなじCDを積み上げたことはある!まあ数十枚くらいだけどけどこれって世間一般の音楽好きには入らないでしょ…?(震え声)
ライブは好きだけど、月に10回~程度だ。私のTLには20くらい平気で足を運ぶ人たちで満ちている。勿論遠征含みだ。とてもじゃないけど敵わない。

 

えっ。好きなの?自信持っていっていいの?えっ。わかんない。

 

混乱した私は苦みばしった顔で「ええと・・・まあまあ、ですかね・・・」と小さい声で答えるのが精一杯だった。
まだ大学生くらいのその男子は拍子抜けした顔で、そしてその私の答えには一切触れずにそのバンドの説明をはじめたのだった・・・。

なんだったの。なんでこんな質問したのかマジでわかんないんですけど???
ていうかこの質問必要だった・・・カナ???

ちなみに桜木花道にバスケは好きかと問うた赤木晴子さんは、兄の在籍するバスケ部への勧誘が目的であったし、音楽が好きかと問うたヨンスはこの後、自らが感じ信じる音楽の力について話したのだった。ちゃんと問いが本意に結びついている。

 

混乱したまま見たせいもあり、正直その彼らお勧めのバンドの記憶は薄い・・・。そして私のイチオシのバンドはちょっと見て、彼らは途中で消えた。お互いに好みではなかったんだろう。そう、音楽は嗜好品。別に全てを肯定し全てを好きである必要なんて一ミリも無いのだ。もしかしたらこの先、またどこかで好きになるかもしれないし。巡りあわせだ。

ただこの日からずっと私の中でもやもやし続けているのだ。
私は誰かに問いたくて仕方が無い。


「音楽は好きですか?」